ゲノム編集

リンドウにおけるゲノム編集技術の利用   ー育種素材の作出へ 

 ・ ゲノム編集技術は、様々な作物に突然変異を誘発させる方法として、世界中で利用されており、中でも、CRISPR/Cas9システム注1)は最もポピュラーな技術です。この方法を用いリンドウに効率的に突然変異を誘発する技術の開発に取り組んでいます。実例として、花の形を制御する遺伝子の編集により、八重咲きの育種素材を効率的に作出することに成功しました。さらに、作出した突然変異体について、野生株(普通のリンドウ)と交配することで、ある一定の割合で、ゲノム編集時に導入した外来遺伝子を保持しない個体〔ヌルセグリガント注2)を作出できることも明らかにしました。ヌルセグリガントは、関係省庁への届け出により一般圃場での栽培が可能となります。

【研究成果の背景と概要】

  リンドウは岩手県の主要な花き品目であり、初夏から晩秋にかけて切り花や鉢花として利用されています。しかしながら、多年生植物であり遺伝的に雑多であるため、品種改良に時間と労力がかかります。

また、山取りの系統を利用し育種が行われてきたため、現在では、利用できる育種素材が限られています。そこで、本研究では、様々な作物への適用が進んでいるゲノム編集技術を利用して、リンドウに効率的に突然変異を誘発させる技術の開発に取り組みました。

研究の結果、世界中で利用されているCRISPR/Cas9システムをリンドウ用に最適化することに成功しました。私達が開発した技術を用い、八重咲きに関わるMADS box遺伝子注3)であるAGAMOUS (AG1) をターゲットにゲノム編集を試みたところ、八重咲き変異体を効率的に作出することができました。

また、こうして作出した突然変異体と野生株(普通のリンドウ)の花粉との交配により獲得した次世代のリンドウは、ある一定の割合で、ゲノム編集時に導入した外来遺伝子を保持しない個体(ヌルセグリンガント)が存在することも確認できました。

 

【今後の展望】

この技術により、様々な形質(新規花色、多弁咲き、花持ち性、耐病性等)を有するリンドウの突然変異系統を効率的に作出することができます。

将来的には、こうした系統を育種素材とした新奇性の高い優良リンドウ品種の育成が期待されますが、現時点では、ゲノム編集技術により作出した植物を一般的な温室や圃場で栽培するためには、関係各省庁への届け出が必要となります。今後とも、国のルールを遵守しながら、ゲノム編集のための基礎技術の獲得・研鑽に励んで参ります。


雑誌名: Plant Biotechnology

論文タイトル: Efficient double-flowered gentian plant production using the CRISPR/Cas9 system.

著者: Nishihara et al.   URL: https:// doi.org/xxxxxx

 

【著者所属一覧】  公益財団法人岩手生物工学研究センター 

西原 昌宏・平渕 亜紀子・後藤 史奈・渡辺 藍子・

吉田 千春・鷲足 理恵・ 根本 圭一郎

岩手県農業研究センター 小田島 雅

 

【参考文献】

Tasaki et al. Scientific Reports 9: 15831 (2019); BMC Plant Biology 20: 370 (2020); Takahashi et al. International Journal of Molecular Sciences 23: 5608 (2022); Plant Physiology 188: 1887-1899.

 

【謝辞】

本研究は、農水省 委託プロジェクト「ゲノム編集技術を活用した農作物品種・育種素材の開発(個別)」 (JP19190722) 花持ちが良く、省力栽培に適した花き (R1-R5)の補助を受けて行いました。

 

【用語説明】

注1) CRISPR/Cas9システム

世界中で利用されているゲノム編集技術。ヌクレアーゼ(核酸を分解する酵素)であるCas9タンパク質と特定のDNA配列を標的とするガイドRNAにより目的遺伝子を切断し、編集を行う。国内では、筑波大学発のベンチャー企業が、本技術により「GABA高蓄積トマト」を作出し、既に市場に出回っている。

注2) ヌルセグリガント

ゲノム編集により作出された個体のうち、交配等によって導入された外来遺伝子(ゲノム編集ツール)が取り除かれた個体。

注3) MADS box遺伝子 

花の形を制御する遺伝子。花の形以外にも開花期制御など、植物体内で様々な機能を持っている。

現在、農林水産研究推進事業 「ゲノム編集技術を活用した農作物品種・育種素材の開発(個別)」花持ちが良く、省力栽培に適した花き (令和元年〜令和5年)によりゲノム編集技術の高度化を目指した研究を進めています。 

概要は農水省のファイルを参照にしてください。

 ゲノム編集技術の利用

リンドウにおいて、ゲノム編集技術の高度化を進めています。                                             これまで花色関連遺伝子にCRISPR/Cas9技術を適用し、ノックアウト系統を効率的に作出可能であることがわかりました。


現在、花型、開花期等、様々な遺伝子の機能解析に利用しています。                            また、 編集技術の効率化や新規編集技術の開発に関する基礎研究を行っています。